USERTをSPIマスターモードで使う
メリットと使用の意義
- ハードウェアリソースの効率的利用
Arduino Unoには標準で一つのSPIインターフェースがありますが、複数のSPIデバイスを同時に接続して管理する必要がある場合、USARTをSPIモードで使用することで追加のSPI通信ラインを確保できます。これにより、ハードウェアの拡張性が向上します。 - フレキシブルなピン配置
一部のプロジェクトでは、デフォルトのSPIピン(11, 12, 13ピン)以外のピンを使用したい場合があります。USARTのSPIモードを利用すると、別のピンセットをSPI通信に使用できるため、ボード上での物理的な配置や配線の自由度が増します。 - カスタマイズ可能な通信プロトコル
USARTはプロトコルの柔軟性が高く、通信のフォーマットや同期の設定を細かく調整することができます。このため、標準のSPIインターフェースでは対応しづらい特殊な通信プロトコルの要件に合わせやすいです。 - 高速通信の実現:
USARTをSPIモードで使用することで、Arduino UnoのCPUクロックに近い速度での通信が可能になり、デフォルトのSPIインターフェースよりも高速なデータ転送を実現できる場合があります。
使うシーン
マイクロコントローラ間通信
複数のマイクロコントローラが同一のプロジェクト内で動作し、互いにデータを交換する必要がある場合、USARTマスターモードを使用して、安定したクロック信号の下で確実に通信を行うことができます。この設定により、一方のマイクロコントローラが通信のクロックを制御し、もう一方がそのクロックに同期してデータを送受信します。
2. 外部デバイスとの通信
外部デバイス(例えば、特定のセンサーや通信モジュールなど)が同期シリアル通信を要求する場合、USARTマスターモードを使用してこれらのデバイスと通信することができます。この場合、マイクロコントローラが通信のペースを決定し、外部デバイスはマイクロコントローラから提供されるクロックに同期して動作します。
3. SPIプロトコルの代替として
SPI(Serial Peripheral Interface)は同期シリアル通信プロトコルの一つで、マスター/スレーブ方式で動作します。一部の状況では、USARTのマスターモードを使ってSPIと同様の通信を実現することが可能です。例えば、ハードウェアSPIピンが他の用途で使用されているか、使用できない場合にUSARTをマスターモードでSPIのように利用することができます。
4. 特定のプロトコルの実装
外部デバイスが特定の同期通信プロトコルを要求し、そのプロトコルがUSARTの機能によって実装できる場合、USARTマスターモードが利用されます。このような場合、マイクロコントローラはプロトコルの要求に応じて適切なフォーマットでデータを送受信し、外部デバイスと正確に同期します。
プログラミングについて
USARTをマスターモードで使用する際は、クロック信号の正確な生成と管理、通信相手とのプロトコルの完全な互換性の保証、通信エラーのハンドリングなど、通信の信頼性を確保するための追加の対策が必要です。また、実装にはマイクロコントローラのデータシートを詳細に理解し、レジスタレベルでのプログラミングが伴うため、一般的なArduinoプログラミングよりも高度な知識が求められます。
USARTマスターモードの設定を行う
USARTをマスターモードで使用するためには、いくつかのレジスタを設定する必要があります。これには、USARTの制御レジスタ(UCSRnA、UCSRnB、UCSRnC)、ボーレートを設定するUBRRnレジスタ、およびデータを送受信するためのデータレジスタ(UDRn)の設定が含まれます。
- ボーレート設定: UBRRnレジスタを使用してボーレートを設定します。ボーレートは、通信速度を決定します。
- 制御レジスタ設定: UCSRnCレジスタを使用して、同期モードを有効にし(UMSELnビットを設定)、必要に応じてパリティビット、ストップビット、データビットの長さを設定します。
- クロックポート設定: USARTのクロックを外部に出力するために、XCKnピン(外部クロック出力)を出力として設定します。このピンはUSARTのクロック信号を生成するために使用されます。
ArduinoでのUSARTマスターモードの使用例
Arduino環境では、以下のような手順でUSARTをマスターモードで設定することができますが、これを実現するにはAVRのレジスタ直接操作が必要になります。
#define F_CPU 16000000UL // クロック周波数の定義
#define BAUD 9600 // 使用するボーレート
#include <util/setbaud.h>
void setup() {
UBRR0H = UBRRH_VALUE; // ボーレート設定の上位バイト
UBRR0L = UBRRL_VALUE; // ボーレート設定の下位バイト
UCSR0C = (1 << UMSEL01) | (1 << UMSEL00); // USARTを同期モード(マスターモード)に設定
UCSR0B = (1 << RXEN0) | (1 << TXEN0); // 受信と送信を有効化
// 必要に応じてその他の設定(パリティ、ストップビット等)
// XCKピンを出力として設定するための追加の設定が必要になる場合があります
}
void loop() {
// ここでデータの送受信を行う
}
このコードは概念的な例であり、Arduino Unoや他のATmega328PベースのボードでUSARTをマスターモードで動作させるための基本的な設定を示しています。しかし、実際にはこの設定を正しく機能させるためには、マイクロコントローラのデータシートを参照し、ピンの設定や接続されたスレーブデバイスとの通信仕様に基づいた適切な設定が必要です。
注意点
USARTをマスターモードで利用する場合、適切なクロック源とクロックの同期、接続されたスレーブデバイスとの通信プロトコルに注意深く対応する必要があります。また、この高度な設定と利用は、Arduinoの標準機能を超えたものであるため、深い理解と慎重な実装が求められます。
サンプルソースコード
以下はATmega328Pを使用したArduinoでUSARTをSPIマスターモードで設定する基本的な例です。この例ではUSARTを使ってSPIマスターデバイスとして機能させ、データを送信しています。ただし、実際のSPI通信ではスレーブデバイスが必要です。
void setup() {
// USARTをマスタースパイモードに設定
UCSR0C = (1 << UMSEL01) | (1 << UMSEL00); // USARTモードをマスターSPIに設定
UCSR0B = (1 << TXEN0); // 送信を有効化
UBRR0 = 0; // ボーレートを設定 (F_CPU / (2 * SCK レート) - 1)
// SPI設定
DDRB |= (1<<PB3)|(1<<PB2)|(1<<PB5); // MOSI, SCK, SSを出力に設定
PORTB |= (1<<PB2); // SSピンをHIGHに保持
}
void loop() {
// ここにデータ送信のコードを書く
SPDR = 0x55; // データレジスタにデータを書き込む
while(!(SPSR & (1<<SPIF))); // 送信完了を待つ
}
注意
- USARTをSPIモードで使用する際は、ハードウェアのマニュアルやデータシートを参照して、正しいピン配置と設定を確認することが重要です。
- この機能は全てのAVRやArduinoボードで利用できるわけではないため、使用するマイクロコントローラの仕様を確認してください。
参考:UNOにおけるSPI通信サンプル
参考までに、Arduino UnoでSPI通信を行うための基本的なサンプルコードを以下に示します。このコードでは、Arduino UnoがSPIマスターデバイスとして機能し、指定されたデータをSPIスレーブデバイスに送信します。ここでの例では、SPI通信を利用してスレーブデバイスにデータを送る一方向の通信を行います。
ソースコード
#include <SPI.h>
void setup() {
// SPI通信の開始
SPI.begin();
// SPI通信速度の設定、クロック分周を設定(例:SPI_CLOCK_DIV16)
SPI.setClockDivider(SPI_CLOCK_DIV16);
// データオーダーをMSB先に設定
SPI.setBitOrder(MSBFIRST);
// データモードを設定(例:SPI_MODE0)
SPI.setDataMode(SPI_MODE0);
// スレーブ選択ピンを出力に設定
pinMode(SS, OUTPUT);
}
void loop() {
// スレーブデバイスをアクティブにする
digitalWrite(SS, LOW);
// データを送信
SPI.transfer(0x42); // 任意のデータを送信、例えば0x42
// スレーブデバイスを非アクティブにする
digitalWrite(SS, HIGH);
// 1秒間隔でループ
delay(1000);
}
プログラムの全体イメージ
そして、SPI通信を開始する前に、SPIの設定を行います。これには、SPIの初期化、マスターモードの設定、クロック速度の設定などが含まれます。
そして、SPIを使用してスレーブデバイスにデータを送信する関数を実装します。この関数では、スレーブデバイスをアクティブにするためにスレーブ選択ピン(SSピン)をLOWに設定し、
SPI.transfer()
関数を使用してデータを送信します。コードの説明
SPI.begin()
はSPIバスを初期化し、マスターモードでの通信を開始します。SPI.setClockDivider()
はSPIのクロック速度を設定します。Arduino Unoのクロックは16MHzなので、SPI_CLOCK_DIV16
を使用すると、クロック速度は1MHzになります。SPI.setBitOrder()
とSPI.setDataMode()
でデータのビットオーダーとSPIモードを設定します。digitalWrite(SS, LOW)
とdigitalWrite(SS, HIGH)
でスレーブデバイスを選択および選択解除します。
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